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コンウェイの超現実数(surreal number)

 ここでは厳密な定義は示さず、簡単な導入のみ書くことにします。


超現実数(surreal number)の値 χ は、2つの超現実数の集合 L, R の対 { L | R } で表されます(縦棒 | は区切り線です)。ここで、L を左集合、R を右集合と言います。L, R はそれぞれ空集合でもokです。また、


$ \left\{ \left\{1,\,2\right\}\, \middle| \,\left\{3,\,4\right\} \right\} = \left\{ 1,\,2\, \middle| \,3,\,4 \right\} $


というように、{ } を省略して書いてもよいです。
L はそのどの元も χ より小さく、R はそのどの元も χ より大きくなければなりません。L と R の間に χ が挟まってるイメージです。


 まず、値から左/右集合を決定する方法を述べます。



 上の二分木(二分探索木)に現れる数は、全て二進有理数です。
 ではまず、二進有理数を対の形で表してみましょう。例えば 3/8 。

  1. 上の二分木で、0 からスタートして、3/8 を目指して進んで行きます。
    対象が今いる所の数より大きかったら右へ、小さかったら左へ進んでいけばいいのです。3/8 の場合、次のようなルートになりますね。

    $0 \to 1 \to \frac{1}{2} \to \frac{1}{4} \to \frac{3}{8}$

  2. { | } からスタートします。
    先程の二分木上の旅において、対象が今いる所の数より大きかったら左、小さかったら右集合にその数を追加していきます。

    $\left\{ \, \middle| \, \right\} \to \left\{ 0\, \middle| \, \right\} \to \left\{ 0\, \middle| \,1 \right\} \to \left\{ 0\, \middle| \,\frac{1}{2},\,1 \right\} \to \left\{ 0,\,\frac{1}{4}\, \middle| \,\frac{1}{2},\,1 \right\}$

  3. こうして出来た対の値を 3/8 とします。

    $\frac{3}{8} = \left\{ 0,\,\frac{1}{4}\, \middle| \,\frac{1}{2},\,1 \right\}$

 いくつか例を挙げておきます。


$\begin{array}{rcl} 0 &=& \left\{ \, \middle| \, \right\} \\ 1 &=& \left\{ 0\, \middle| \, \right\} \\ -1 &=& \left\{ \, \middle| \,0 \right\} \\ 4 &=& \left\{ 0,\,1,\,2,\,3\, \middle| \, \right\} \\ \frac{1}{2} &=& \left\{ 0\, \middle| \,1 \right\} \\ -\frac{1}{8} &=& \left\{ -1,\,-\frac{1}{2},\,-\frac{1}{4} \middle| \,0 \right\} \end{array}$


 二進有理数でない実数は、これと同じ操作によって、無限集合で表されます。


$\begin{array}{rcl} \frac{1}{3} &=& \left\{ \,0,\,\frac{1}{4},\,\frac{5}{16},\, \cdots \, \middle| \, \cdots ,\,\frac{3}{8},\,\frac{1}{2},\,1 \right\} \\ -\sqrt{2} &=& \left\{ \, -2,\,-\frac{1}{2},\, \cdots \middle| \, \cdots ,\,-\frac{11}{8},\,-\frac{5}{4},\,-1,\,0\right\} \end{array}$


 ここで、次のような定理があります。



 L' は全ての元が L のどの元よりも小さいような集合で、R' は全ての元が R のどの元よりも大きいような集合とします。このとき、次のように簡単化できます。

$\begin{array}{l} \left\{ L^{\prime} \cup L \, \middle| \, R \right\} = \left\{ L \, \middle| \, R \right\} \\ \left\{ L \, \middle| \, R \cup R^{\prime} \right\} = \left\{ L \, \middle| \, R \right\} \end{array}$


 元を削除できるわけです。特に、L の最大元,R の最小元が存在すれば、

$\begin{array}{l} \left\{ L \, \middle| \, R \right\} = \left\{ \max(L) \, \middle| \, R \right\} \\ \left\{ L \, \middle| \, R \right\} = \left\{ L \, \middle| \, \min(R) \right\} \end{array}$


 簡単化した例を示します。


$\begin{array}{rcl} 4 &=& \left\{ 3\, \middle| \, \right\} \\ -\frac{1}{8} &=& \left\{ -\frac{1}{4}\, \middle| \,0 \right\} \\ \pi &=& \left\{ 3,\,\frac{25}{8},\, \cdots \, \middle| \, \cdots ,\,\frac{51}{16},\,\frac{13}{4},\,\frac{7}{2},\,4 \right\} \end{array}$


 二進有理数でないと左/右集合の最大元/最小元が存在しないので、普通ここまでしか簡単化しません。
 一般式を書いておきます。n ≧ 1, m は 0 でない整数です。


$\begin{array}{rcl} n &=& \left\{ n-1 \, \middle| \, \right\} \\ -n &=& \left\{ \, \middle| \, -\left( n-1 \right) \right\} \\ \frac{m}{2^n} &=& \left\{ \frac{m-1}{2^n} \, \middle| \, \frac{m+1}{2^n} \right\} \end{array}$


 今度は、対から値を計算する方法です。
 ここで、少し言葉を定義します。


  • 上の二分木において、ノードの深さを、その数の誕生日(birthday)と呼びます。(図の右に「○日目」と書いてあるものです)

  • ある集合の中で最も小さな(早い)誕生日を持つ元を、最年長(oldest)であると言います。


 面白いですね。何故「誕生日」と言うのか、是非調べてみてください。

 任意の対に対する値は次のように与えられます。先の定理から、左/右集合の元がそれぞれ高々1個のものだけを示します。



 超現実数 α, β(α < β) に対して、
  • { α | } の値は、α より大きな数の中で最年長のものに等しい。

  • { | β } の値は、β より小さな数の中で最年長のものに等しい。

  • { α | β } の値は、α より大きく β より小さい数の中で最年長のものに等しい。


 やってみないと分かりにくいですね。例えば { 1/8 | 3/2 } 。

  1. 上の二分木で、1/8 より大きく 3/2 より小さい範囲を見ます。

  2. その中で最年長のものとは、一番上にあるものです。一番上にあるのは 1 なので、

    $\left\{ \frac{1}{8}\, \middle| \,\frac{3}{2} \right\} = 1$

 簡単なものの一般式を書いておきます。α, β は正の数です。


$\begin{array}{rcl} \left\{ \alpha\, \middle| \, \right\} &=& \lfloor \alpha \rfloor + 1 \\ \left\{ -\alpha\, \middle| \, \right\} &=& 0 \\ \left\{ \, \middle| \,\beta \right\} &=& 0 \\ \left\{ \, \middle| \,-\beta \right\} &=& \lceil -\alpha \rceil - 1 \\ \left\{ -\alpha\, \middle| \, \beta \right\} &=& 0 \end{array}$



 ところで、二進有理数でない実数の誕生日は、無限大になってしまいますよね。それらの誕生日は、極限順序数 ω と定められています。
 その ω も超現実数的に対の形で表すことができます。


$ \omega = \left\{ 0,\,1,\,2\, \cdots \, \middle| \, \right\} = \left\{ \mathbb{N} \middle| \, \right\} $


 更に、この ω に対して演算を定義することができます。ω-1,1/ω なんかも定義することができます。
 超現実数はこの辺の話が面白いのですが、今回はここまで。



 ・・・この記事、ずっと前から書いていて、ちょくちょく更新してたんだけど、最終更新日が去年の11月30日(2か月前)でしたw
 流石にもう公開しないとって感じだし、統一感が損なわれるので、ここまでにしときますね。補足は気が向いたら別記事で。
 (というか久しく超現実数に触れてなかったので、途中からはメモ頼りになっててちょっぴり自信無い・・・(^^; )



 「超現実数」という名称について。
 これは英語"surreal number"の直訳だと思われます。つまり、"超現" + "実数" ではなく、"超現実" + "数" なのです。
 ところが、この単語は実数"real number"に「超-」を意味する接頭辞"sur-"を付けたもので、正しい訳は「超実数」なのです。
 そうは思うのですが、「超実数」と言うと普通"Hyperreal number"の方を指すみたいなので、敢えてこのように訳したのだと思います。
 ・・・でも、超現実数の複素数バージョンである"surcomplex number"は「超現複素数」と訳されてるんですよね。つまり、"超現" + "実数" というように再解釈したわけです。
 これだと、"sur-"の意味が「超現-」になってしまう・・・そんな単語ありませんからね?(^^;
 英語には「超」を意味する単語が多いなぁと思います。もうカタカナにしましょうよ・・・



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参考文献は?

「超現実数」で検索してこのページに来ました。
面白いですね!
クヌース先生の本以外に,参考文献ってありますか?
ご存じであれば,ぜひ教えていただければ。

Re: 参考文献は?

> 「超現実数」で検索してこのページに来ました。
> 面白いですね!
> クヌース先生の本以外に,参考文献ってありますか?
> ご存じであれば,ぜひ教えていただければ。

ありがとうございます!
実は自分は、クヌース先生の本はこの記事を書いた後に読みました。あちらの方が厳密的です。(それに分かりやすい)

参考文献は全てネットに落ちていたものです。

Surreal number - Wikipedia(英語)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Surreal_number

組合せゲーム理論入門 - 川辺治之
(1) http://www.ivis.co.jp/wakamizu/text/20111102.pdf (PDF)
(2) http://www.ivis.co.jp/wakamizu/text/20111116.pdf (PDF)

AN INTRODUCTION TO CONWAY’S GAMES AND NUMBERS - Dierk Schleicher, Michael Stoll
http://arxiv.org/pdf/math/0410026.pdf

(おまけ)
Hackenbush - Tom Davis
http://geometer.org/hackenbush/index.html

等。

超現実数は組合せゲーム(コンウェイゲーム)の一部として定義されることもあるので、そっちでも検索してみるとより理解が深まると思います。
その場合、超現実数は単に「数(number)」と呼ばれるので注意です。

返信ありがとうございます!

返信ありがとうございます!

紹介してくださった各文献に,さっそく目を通したいと思います。

組合せゲーム(コンウェイゲーム)との関係もあるのですね。
今後,改めて調べてみます!

ありがとうございました!
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Author:紗々美恵文
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http://twpf.jp/eight_yomenai

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